「森林環境教育の現場は今」 あたらしい里山資源の循環モデル地区、上籾を訪ねて
先月になりますが、実習で岡山のパーマカルチャー実践実験場ともいうべき「パミモミ」を訪れた際の記録を学生のマイマイこと石川麻衣子さんがレポートしてくれたので以下に紹介します。
なんちゃって先生 ナバ
今回の環境教育専攻の「森林環境教育プログラムの現場は今」の授業の訪問先は岡山県中央部に位置する久米南町の上籾地区。人口100人ほどの小さな限界集落で、日本の棚田100選にも選ばれた美しい里山です。先月訪れた浜松に続き、パーマカルチャーの先進地で今どんなことが行われているかを学ぶためにやって来ました。
上籾の里山再生のリーダー的存在であるカイルさんは、アメリカ出身で日本にやってきて親方の元で修行を受けた左官職人でもあります。 地域の人とともに自然由来の資源やエネルギーの循環型システムに関するワークショップを数々実践されています。
上籾の棚田は標高400メートル。ひんやりとした空気が紅葉を美しく彩っていました
最初にパーマカルチャーのデザインの基本を教わりました。ポイントは2つあります。
1つ目の考え方が「ゾーニング」です。人間が暮らしの中でよく利用する場所から、手をつけずに自然をそのまま残すべき場所まで分類してゆきます。使用頻度によって適正な距離を確保するため、ゾーン0からゾーン5まで6段階の区分を設定し、よく使うものほど近くへ使わないものは遠くに配置します。 たとえばゾーン0は”寝室”、ゾーン5は”山頂の神社の鎮守の森”というようなゾーニングになります。
2つ目の考え方が「セッター」です。こちらは内外からのエネルギーのベクトルです。光や熱などエネルギーを効率的に循環させるために空間全体のインプットとアウトプットを理解することは、パーマカルチャーではとても重要です。今年の環境教育専攻の1年生はたまたま全員が情報工学を学んできた経歴もあって、システム全体の総和として環境を捉える考え方はわりとしっくり理解することができました。
次にパーマカルチャーの現場となっている古民家周辺とその裏山を案内してもらいました。
岩清水を集めため池
湧き水を利用したため池は、温度調整の機能を果たす他、水に反射した太陽光を利用して光合成を促進し、隣接した斜面に果樹を育てるのに適した条件をもららします。
このようなミクロなレベルの気候やエネルギーの調整機能を「微気候」といって、パーマカルチャーのデザインでは微気候の要素をつくり出すことは大切です。 ため池の他にも、南向きの石垣は昼間に蓄熱し夜は放射するような微気候を作り出します。 こちらは冬季にダクト通して温熱を送ってヒーターとして使うことが可能です。自然や土地をよく観察して、どのようにエネルギーを集めて、暮らしに役立つようにどのように設計するかを考えてゆきます。
家からほど近いゾーンにはキッチンガーデンを配置しています
暮らしに役に立つ植物を集めたキッチンガーデンには、インスタントガーデンというメンテナンスが簡易になるしくみを取り入れています。 段ボールの上に10センチメートル程度牛糞や堆肥を乗せて、その上に野菜の苗を植えつけ、最後に藁で覆いをします。除草剤を使わない自然農では雑草の繁茂が著しいのですが、これで収穫したい植物以外の成長を抑制することができます。 やがて苗は段ボールを突き抜けて成長しますし、段ボール自体は土に分解されます。
木造軸組構法で建設中の家。間伐材を垂木に使用しています
古民家のすぐ脇では軸組の家を建設中です。2017年の9月には裏山から木を伐採して翌月10月に軸組を立てました。この家は南向きの斜面の間の小さな平地に位置しています。南北の高低差を利用した煙突効果で床へ熱を送り、北側に煙突を通して排熱するオンドル(床暖房)を作る予定です。また屋根は屋上緑化にするそうです。
今年の冬には屋根づくりを、来年の夏にはオンドルの設置をして、最後に壁塗りをして来年10月に完成の予定です。 エネルギーを無駄にしない工夫を学びながら、みんなで取り組む家づくりはとてもワクワクします。
上籾地区は標高の高い土地ですが水の資源が豊かで棚田が広がっています。
カイルさんの家の裏山にも10年前に休耕田となった棚田跡がありました。かつての生活跡を調べてみると、 横井戸があったり水路が巡らされていたり水を工夫して使ってきたことがわかります。 また水が豊かな土地であるだけに、恵みだけでなく自然災害の影響を受けやすい土地であることもわかりました。そこでカイルさんは、地滑りを抑制し防災に強い森づくりをするためにはどのように樹木をデザインしたらよいか目下研究中で、これから実践に移そうとしています。
カイルさんが上籾の里山で取り組んでいるパーマカルチャーは、その土地の元々持っている資源の長所と短所を持続可能な暮らしの目線でしっかりと調査した上で、 それらを循環的に効率よく使うにはどのようにデザインしたら良いか考えて体現されています。 その実践の方法は、地域の住民や持続的な暮らしや地域経済に興味のある人たちと協力しながら、考え・体を動かし・楽しく学べる場やコミュニティをベースとしています。
ハコ・モノのハードの部分と、人をつなぎコミュニケーションの輪を拡げてゆくのソフトの部分の両輪がうまく機能した新たなコミュニティのモデルと感じました。まだ始まったばかりですが、里山の小さな地区の一角でカイルさんを中心とした上籾でのムーブメントは、今後の里山資源の利用の後押しとなりそうな予感です。
石川 麻衣子(森林環境教育専攻1年)